「田作り」や「ごまめ」のことを、山陰地方では「からんま」と言う。砂糖醤油で甘辛く味付けされた片口いわしで、おせちに入っている、あれである。
亡くなった祖父の作るからんまは、本当に美味しかった。
祖父はお正月に限らずからんまを作っていて、お友達を訪ねる時や、旅行に行くときには必ず持って行き、差し上げたり食べてもらったりするのが楽しみだった。
普段からそうだったので、年末が近づくと祖父は朝から晩まで大忙しで、ふうふう言いながらからんまを作っていた。手首に湿布を貼りながら作っていたこともあるくらいだ。
祖父のからんまには、通常鷹の爪が入っていたが、子供の私には唐辛子抜きの特別バージョンで、青い「からんま」シールを貼った容器に入れてもらっていた。それを私は1匹ずつつまみあげては、甘じょっぱいアメ部分をたっぷりなすりつけて食べていた。
ほろ苦いからんまと甘じょっぱいアメとのバランスが、子供の私には妙に大人の味だった。
別の人が作ったからんまを食べた事があるが、木の枝か?!と思うぐらい硬くて、とてもしょっぱかった。
そのことを祖父に言うと大変喜び、作り方のコツをこっそり教えてくれた。
1、原料の片口いわしの素干しを焙烙(ほうろく)で炒って、お砂糖とお醤油と鷹の爪を小鍋に入れて溶かしたものに、先ほどの片口いわしを入れる。
2、バッドに広げ、うちわで一気に扇ぐ。
3、粗熱が取れたら、炒りごまをたーーっぷりかける。
祖父から教えてもらった事は、
「箸でごーぎに掻き回すだない!(箸で強く掻き回しちゃダメ)」
「はやこと扇がんとツヤが出らん!(早く扇がないとツヤが出ない)」この2つ。
結局、祖父から正確な分量は教えてもらえなかったが、水あめが隠し味に入っていたような気がする。
そう言えば、よく祖父から「明日は何時間目まであーかや?」と聞かれた。
学校から帰ると、からんま製造工場(?)の横で、ちょうどさつま芋が焼き上がるタイミング!!そのホカホカの焼き芋をペロリと平らげた私は、作りすぎで手が痛い祖父の代わりにうちわで扇ぐお手伝いをしたものだった。
あれからうん十年。
私のからんまは、祖父の味に少しは近づいただろうか?
祖父のレシピには遠く及ばないが、私のレシピは後日。。。